INTERVIEW

CONTENTS

お客様に聞いてみた!

Vol.1

社屋は“家”で、社員は“家族”

社内外から人が集まる
「リビング」のあるオフィス

1階は玄関、2階はリビング、3階は勉強部屋。
緩急をつけたマイホームのようなオフィス

越智

結果的に、物件は最初から最有力候補のひとつだった都島のビルに決まりました。次は空間のレイアウトやデザインを設計するフェーズに入っていくわけですが、その話をする前に新しいオフィスのコンセプトを確認しておくと、「人が集まるオフィス」だったわけですよね。
御社にはクライアントのオフィスでプロジェクトを進めている社員さんもいらっしゃるので、帰りに立ち寄ってくれるオフィスのような場所をイメージしていたということでしょうか。

松井

ぶらっと立ち寄るとか、なんとなく暇なときに出社するとか、イベントがあるから集まるとか。そんな場所ですね。

越智

松井さんの要望を受けて、より具体的なコンセプトを設定するために、私たちのほうで御社の社員さんたちにアンケートを取りました。年齢も性別もさまざまな方々に「心地のいい場所」や「よく行く場所」を挙げていただいたところ、コロナ禍ということもあってか、圧倒的に「家」や「友人の家」といった回答が多かったんです。そこで、新オフィスのコンセプトを「家」にしてはどうかとご提案して。

 

実際にKATATIが取ったアンケートの集計結果

小栗

オフィスは「家」で、そこで働く社員さんたちを「家族」に見立てるという。

ご提案時に実際に使用したコンセプトのスライド

松井

そのコンセプト自体は気に入りました。ただ、最初に提案いただいたときは迷いもあって……。

越智

迷っておられましたね。「わが社にはマザーがいないので、家族に見立てるのはどうなのか」と。

小栗

すべてを受け容れてくれる「母性」がないと。印象的なお言葉でした。

松井

実際にそうやと思うんですよ。そこはいまも変わっていません。

越智

松井さんはお若いですし、それまでの人柄や仕事ぶりを拝見していて現代的な男性を体現する人というイメージがありました。だからこそ、“母は家にいるもの”といった前時代的なジェンダーロールを連想する発言を意外に感じたところがあるんです。ご発言の意図について、あらためて説明していただいていいですか?

松井

良くも悪くも自分には「家=母親が迎えてくれるもの」といったイメージがあったんです。そのジェンダーロールを担う文化は、うちの会社にはない。僕個人のイメージと会社の実態、そしてKATATIさんに提案いただいたコンセプトがうまく噛み合わずに迷っていました。でも、よくよく考えれば、会社という家で、社員という子どもたちがわいわいやっている感じはある。それなら「家」でもいいかと。

 

小栗

なるほど。

越智

コンセプトが決定したあとは、新オフィスのゾーニングに着手しました。執務スペースはどうするのか、会議室や応接室はどこに置くのかといった区分について考えていったわけですが、本プロジェクトの検討事項のなかでは、ここがいちばん時間を要したように思います。

松井

ゾーニングについてはワーキンググループのメンバーがそれぞれに異なる意見を持っていて、全員がカタチさんとのミーティングに参加したんです。あえて全員参加型にしたために、合意形成までに時間はかかってしまいましたね。

越智

弊社が最初に提出したプランは、1階が玄関兼ギャラリー、2階がリビング、3階が勉強部屋、4階が屋根裏部屋というものでした。それに対して、御社の社員さんから「1階にも作業スペースがほしい」「PCのモニターを2台置くから机をもっと大きくしてほしい」といったフィードバックがあり、何度かキャッチボールをさせていただいて。最終的に現行のプランに落ち着くまでに、社内ではどのような議論があったのでしょうか?

ご提案時に実際に使用した「各階のコンセプト」のスライド

新オフィスのエントランスには、当初の「ギャラリー」という案を活かして会社の理念をビジュアル化したイラストを掲示。イラストはイラストレーターさんに描き下ろしていただきました。奥は作業スペースになっています。

松井

社内のメンバーの意見もさんざん聞いたうえで、KATATIさんが何度目かに提案してくださったプランがちょうど良い落とし所だと感じたので、そのタイミングで決めました。現行のプランになってからは、わりとすぐに意見がまとまった記憶があります。

越智

コンセプトとゾーニングの方針が決まると、次はいよいよ内装デザインを考えるフェーズです。そこから設計士である小栗さんの担当領域が大きくなっていきましたよね。

小栗

そうですね。最初に松井さんがイメージする内装デザインについてお話しさせていただいたとき、「社会主義」というキーワードが出たじゃないですか。

越智

社会主義国っぽいデザイン、みたいなお話がありましたよね。私はそれを聞いたときちょっとドキッとしたんですけど。

小栗

僕は逆に安心したんです。というのも、ふだんは店舗の設計や内装デザインを手がけることが多く、オフィスの仕事の割合は店舗に比べると多くはないんですね。いつもの仕事はビジネスパーソンからすると、ちょっとデザイン要素が強いと受け取られて「もっとオーソドックスな空間にしてください」と言われるかもしれない。その点、松井さんのご希望は最初から「社会主義」でしたから。ふだんどおりの攻めた表現をしても大丈夫なのかもしれないな、と。

越智

小栗さんが最初に「社会主義的なデザイン」と聞いたとき、どんなデザインをイメージしました?

小栗

「強さ」とか、「圧倒的なもの」とか。神秘性や造形美を前面に押し出したデザインなのかなと考えていました。

 

越智

華美すぎない、みたいなイメージですよね。小栗さんはふだん、建材の素材感を活かしたインダストリアルなデザインを得意とされているじゃないですか。その意味では、松井さんの好みと遠からずなのかな、という気がしたんですね。松井さんの「社会主義的なデザイン」はどんなイメージだったんですか?

松井

華やかすぎない、いまの流行りっぽくない。もっと言うと、時代に媚びていない。いずれにしても、社会主義の国でつくられる物って圧倒的に機能美があると思っているんですよ。簡素で無駄がないのに、建築物と美しく調和している。そんなイメージでしょうか。

越智

新オフィスのなかで、そうしたテイストが実際に反映されている箇所はありますか?

 

1階の作業スペースは、社員さんが好きな席を使用できるフリーアドレス制。スキップフロアにしたり、仕切りごとにデスクの角度を変えたりして、近くにいる人同士の目線が合わず、作業に集中しやすい空間に仕上げました。

小栗

空間のゾーニングをした結果、1階は玄関+作業スペースになりましたよね。玄関は外から見える“顔”であることを意識して、一方の作業スペースは机は並んでるんだけど近くの人と目が合わない、ある程度のプライベー性を確保された空間に……などと考えていった結果、デザイン性のほとんどない、機能の塊みたいな空間になったんじゃないかと思っています。無駄な装飾がないという意味では、松井さんのイメージとリンクする部分もあるのかもしれません。

越智

作業スペースの仕切りにグレーチングを採用してくださったり。

工場などで使用される格子状の「グレーチング」を仕切り壁に採用。プライベートスペースは確保しつつ、近くにいる人の気配をうっすらと感じながら作業することができます。

松井

1階と2階のザラッとした質感が気に入っています。あとは3階の応接室を、希望どおりに昭和っぽくしてくれたのもうれしかったですね。大正〜昭和初期にかけての日本は実質的に“良い社会主義国”みたいなものだったので、当時のデザインを見てもやっぱりクオリティが高いんですよ。

 

右が応接室で、左が会議室(ともに3階)。廊下から撮影したのでひとつの空間に見えますが、実際には別々の部屋に分かれています。

小栗

応接室については、あらかじめ松井さんから「昭和」というキーワードをいただいていたので、そこは意識したつもりです。ただ、その昭和感を建物全体のイメージにどうなじませるかは、けっこう工夫が必要でしたね。

松井

うまくなじませてくださったと思います。欲を言えば、応接室には「珠のれん」をつけてほしかったですけどね。昭和の家によくあった、ジャラジャラしてるやつ。ピンポイントでリクエストしたのに採用してもらえなかった(笑)。

小栗

あのジャラジャラはちょっと……。すみません!(笑)

松井

いま振り返ると、さすがにジャラジャラは自分のエゴを出しすぎたと反省しているところがあって。正直、採用されなくて良かったと思ってます(笑)。